子牛の胃と哺乳

 今日は朝から子牛の治療が多かった。

 冬季になると、朝晩の気温変化の大きさから、下痢や風邪になる子牛が増える。

 子牛は成牛と違い、粗飼料を食べずに、ミルクを飲んで成長する。

 子牛の消化管の中で、衝撃を受けた構造が第二胃溝という構造だった。

 

 上の図の様に、食道を通ってきたミルクは第一胃に入ろうとするが、乳首を吸飲したという刺激に反応して、第二胃溝という溝が隆起して、筒状になり、ミルクが一胃や二胃を通らずに三胃を経由して四胃に流れ込む仕組みになっている。第四胃は子牛の胃の中で出生時に完成されており、すでに優れた消化機能をもっている。

 第四胃に入ったミルクは、レンニンというタンパク質分解酵素により固められ、小腸へと送られる。

 もし、ミルクが発達していない一胃に入ってしまうと、一胃にいる未熟な細菌叢によって異常発酵してしまい、ミルクが腐敗し、子牛が調子を崩してしまう(ルミナードリンカー、第一胃腐敗症)。

 ルミナードリンカーの原因は、バケツやカテーテルでの哺乳や冷めたミルクの給与、哺乳時間の不規則化などと言われている。バケツ哺乳は哺乳瓶を持っていなくてもいいので、子牛の前に置いておくだけで楽に哺乳できるが、乳首に吸飲するという行動が欠如しているため、第二胃溝反射が起こりにくい。また、カテーテル哺乳では、第一胃に直接ミルクが入ってしまう可能性がある。

 症状としては、灰白色の粘土状の軟便と一胃の拡張、ゆすった時に聞こえる拍水音が特徴的で、治療で胃を洗浄しようとカテーテルを入れると、かえってくる一胃内の液は灰白色で強い酸臭がする。また、眼は凹み、食欲は明らかに低下する。

 血液検査を行うと、低血糖や総コレステロール濃度の低下がみられるが、血液検査だけでは確定しにくく、農家さんからの哺乳方法の聞き取りや、症状から推察する。

 治療としては、子牛の一胃洗浄と健康な成牛の一胃液の移植(300mL×2日間)と言われている。しかし、現場では、なかなか成牛から一胃液の採取をしている時間も無いので、子牛の一胃洗浄と翌日までの断乳、輸液で治療することが多い。輸液はブドウ糖加酢酸リンゲル液を中心に実施している。

 哺乳瓶で少しずつ飲むことのメリットは、消化酵素の分泌が間に合いやすいこと、唾液が沢山出て消化に良いこと、誤嚥が減ること、一胃に入る可能性が少なくなりルミナードリンカーになりにくいことなどが挙げられる。哺乳瓶で少しずつ飲むという飲み方は、子牛本来の飲み方に近く、間違いなく発育にも良い影響をもたらす。この仕事をしながら農家さんの忙しさを見ていると、バケツ哺乳や哺乳瓶の乳首の穴を大きくして、哺乳時間を減らしたいという思いもすごく良くわかるが、ルミナードリンカーや下痢が多くて悩まれていたら、今一度基本に立ち返ってみて欲しいと思う今日この頃。

 追記:子牛の唾液にはプレガストリックエステラーゼという酵素が含まれており、胃の中で脂肪分解を助ける働きがある。哺乳瓶を用いて時間をかけてちびちびと哺乳することは、唾液の分泌を促し、消化不良性の下痢を予防する効果もあるため、メリットが大きい。逆にバケツ哺乳では、唾液分泌が少なくなってしまう。

 

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