乳牛の代表的な周産期疾病に脂肪肝がある。ケトーシスや第四胃変位などの疾病の背景に本病があると言われている。
○脂肪肝の原因
分娩前になると胎子の成長などに伴い乾物摂取量が低下し、胎子の成長に伴いエネルギー要求量が増加することで、母牛体内のエネルギーがマイナスになる。そこで、母牛の体はエネルギーを確保するため、脂肪組織からトリグリセリドを分解し、グリセリンとNEFA(非エステル型脂肪酸)を作出する。
このNEFAという物質が肝臓で利用されエネルギー源としての役割を果たす。
血中に放出されたNEFAが、肝臓でエネルギー源となる経路は二つ。
① 再度TGに合成されて、肝臓から末梢に分泌される経路
② NEFAがβ酸化されアセチルCoAとなり、TCA回路に入りエネルギーを産生する経路
経路①では、FAは再びトリグリセリドとなり、コレステロールなどとともにVLDV(超低比重リポ蛋白)として肝臓から末梢に分泌される。乳中の脂肪分や生体エネルギーとして利用され、血中ではリポ蛋白リパーゼによって中間型リポ蛋白質、肝臓で肝性リパーゼによってLDL(低比重リポ蛋白質)となる。LDLはステロイドホルモンの前駆物質コレステロールを多く含み、ホルモンの生成などにも利用される。
経路②では、FAがβ酸化を受けてできたアセチルCoAがTCA回路に入ってエネルギーを産生する。
では、脂肪肝やケトーシスが起きる時の状態についてみてみる。
乾乳後期の様にある程度肝細胞内の糖質にある程度余裕があった場合、飼料エネルギーが足りず、自分の脂肪組織を燃焼させてNEFAが大量に作られると、経路①のリポ蛋白の合成が間に合わなくなり、肝臓にトリグリセリドが蓄積して、脂肪肝が誘発されてしまう。
泌乳初期になると肝細胞内の糖質は枯渇しているので、増加したNEFAは経路②に多く動員され、アセチル-CoAとなりTCA回路を回そうとするが、回路を回すエネルギー(糖質)が不足しているので、回路に入れず余ってしまう。余ったアセチル-CoAはケトン体となってしまい、ケトーシスを誘発してしまうのだ。
ちなみに脂肪肝になると、肝細胞に多くのトリグリセリドが蓄積されているが、肝細胞内の粗面小胞体やミトコンドリアが物理的に圧迫され、障害を受けるとされている。この状態で泌乳初期にケトーシスとなると、症状はより一層強くなる。(=Ⅱ型ケトーシス)
こうしてみるとメチオニンやコリンのようなアミノ酸を、ルーメンに分解されない様に給与(バイパス給与)することは、エネルギー産生の面で重要であることがわかる。
乾乳後期に餌の食い込みが落ち、泌乳初期に莫大なエネルギーが必要となる乳牛にとっては、職業病の様なものなのかもしれないが、乾乳後期の飼養環境の改善や添加剤などでこれらを防ぐことはできるので、このことを意識しながら対策を考えていこうと思う。
コメント