初乳について

 分娩後の母牛の生乳は、初乳と移行乳と呼ばれ、普段の生乳と成分が異なる。初乳は子牛が免疫を獲得するために必須であることは昔から知られているが、最近移行乳が子牛の成長に重要であると注目されている。まず、初乳の成分についてみてみる。

初乳生乳
IgG(mg/mL)​75-96​なし​
IGF-1(μg/mL)​〜3,000​5〜50​
IGF-2(μg/dL)​1,825±608​1±0.1​
GH(成長ホルモン)(μg/L)​〜2.0​0.1〜0.3​
インスリン(μg/L)​6〜37​4〜7​
コレステロール(mg/mL)​610〜890​102〜449​
J. Dairy Sci. 99:4111–4123 http://dx.doi.org/10.3168/jds.2015-9741​より抜粋、一部改変

 子牛が病原体に感染したときに体内で免疫が働くためには、免疫抗体と呼ばれる武器(IgG)が必要なのに、生まれた子牛は全くこの武器をもっていない。(他の動物は母親の胎内にいるときにある程度IgGを獲得している)

 子牛が十分な免疫を獲得するには、生後6時間以内にIgGを約150〜200g摂取する必要があると言われている。なので、初乳の良し悪しはIgGの量といっても過言ではない。上の表は良質な初乳の成分であり、初乳のIgGは75〜96mg/mLとなっており、個体差があるため、多めに3L以上飲ませた方が良いと推奨されている。ちなみに、子牛の腸管では生後12時間を超えるとIgGの吸収率が低下し始め、24時間以降はほとんど吸収されなくなると言われている。良質な初乳を生後できるだけ早く飲ませることが重要だ。

 農場でIgGの量を詳しく測ることは困難だが、おおよその量を推定する方法がある。写真の様な糖度計を用いて初乳の糖度を計測し、糖度とIgG濃度が相関することから推測する方法である。

 概ね、糖度22%でIgG約50mg/mLと言われており、厳しめに糖度25%以上の初乳を使用した方が良い。糖度を計測し、良質な初乳を選別することで、子牛に多くのIgGを摂らせることができる。ただ、初乳はIgGの他にも成長ホルモンや、小腸絨毛の発達を促すIGF-1などのタンパク質も含まれており、腸管の発達に影響するため、飲めるだけ飲ませた方が良いと言われている。

 良く農家さんから、もし子牛が初乳を飲まなかったらどうすれば良いかという質問をされる。自分が農家さんに答えているのは、可能な限り自発的に飲むのを待った方が良いが、生後6時間近く飲まなければ、ストマックチューブで強制的に飲ませた方が良いという答えだ。ストマックチューブは農協さんの資材店舗などで売っている、口から強制的に管を入れ、直接胃に初乳を流し込む道具である。強制的に胃に入れると第二胃溝反射が起きないが、IgGの吸収には影響がないとされるデータがある。

 

Journal of Dairy Science Vol. 101 No. 5, 2018より抜粋

  このグラフでは、初乳を哺乳ボトルで飲ませても、ストマックチューブで飲ませても子牛の血清中IgG濃度には差がなかったとしている。近年では、飲ませ方よりも、いかに早く良質な初乳を飲ませることに重点をおいた方が良いと言われている。

 では、最後に初乳中のIgG濃度に影響を与える要因について挙げてみる。

①産次

②乾乳期の管理

③ワクチン接種の有無

 ①の産次は高い方が感染した経験が多いため、IgG濃度は高いと言われている。②は乾乳期にストレスを受け続けたり、飼料のタンパクが不足していたりすると胎子の成長に大きく影響すると言われている。また、③については、乾乳期に呼吸器病ワクチン(ただし、BVDウイルスの生ワクチンは接種禁止)や、下痢5種不活化ワクチンを接種していると親牛の抗体価が上がるだけでなく、初乳中のIgGの量も上がると言われている。

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