定義として、初乳の後から分娩後4日目までの生乳のことを移行乳と呼んでいる。乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)では、分娩後5日以内の牛からの搾乳は禁止されており、通常時の生乳と比較して、固形分が約2倍、タンパク質が約5倍、脂質が多く含まれるためとされている1)。農家さんが廃棄しなくてはならない生乳であるが、初乳に続いて子牛に投与することでメリットが沢山ある。
移行乳の成分について分娩後経時変化を調査した論文では、蛋白質総量(ホエイ、カゼイン)と脂質が多く含まれており、子牛にとって高栄養といえる2)。
表1 分娩後の生乳の経時的変化
出典:石井 洋(2014).牛初乳の乳組成の経時的変化について.帯広大谷短期大学紀要.第51号2014年3月
成分の違いだけでなく、インスリンやIGF-1といったホルモンを多く含んでおり、子牛の成長を促すと考えられている。インスリンは血中の糖を格筋や肝臓、脂肪組織などに取り込む働きがあり、IGF-1は体内の細胞を活性化させると言われている。
こういった成分のおかげで、移行乳を生後2〜4日目に給与すると、増体が良く、腸管が発達したという報告がある3)。
また、オリゴ糖が多く含まれるため、整腸作用があると言われており、下痢の軽減にもつながる。
これまで良いことずくめの移行乳であるが、農家さんに聞いてみると、親牛からの伝染病の伝播が怖いと思っている人は多い。
そこでパスチャライザーという装置を使うことで、低温殺菌することで初乳や移行乳の成分をあまり損なわずに伝染病のリスクを軽減できる。(続く)
参考文献
1) “個別苦情個票「牛の初乳の搾乳制限の撤廃又は緩和」”.内閣府ホームページ.
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/oto/otodb/japanese/kujyou/kobetu/OTO650.html
2) 石井 洋(2014).牛初乳の乳組成の経時的変化について.帯広大谷短期大学紀要.第51号2014年3月
3) B. Van Soest et al.2020. Transition milk stimulates intestinal development of neonatal Holstein calves.
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