前回、移行乳についての話をしたが、今回は親牛から搾った初乳や移行乳を安全に子牛に提供するための機械、パスチャライザーについて書く。
パスチャライザーとは低温殺菌器のことである。なぜ、低温殺菌するのかというと、初乳や移行乳を加温して低温殺菌し、生乳を介した感染症を予防するためである。
まず、加温器の効果について、加温前後の細菌数を調べた結果が以下の通りである。
表1では、黄色ブドウ球菌が60℃30分の加温により、ほぼ死滅したのがわかる。逆に生乳中には多くの細菌が入っていたこともわかる。
ちなみに他の細菌やウイルスの失活温度と時間は以下の通り。
表2から、一般的な加温器の設定、60℃30分でほぼ全ての菌やウイルスを減少させることができる。
では、加温器によりタンパクであるIgGは変化して、効果を失わないのだろうか?
表3の様に糖タンパク質の1種であるIgGの変性が顕著になるのは63℃以上と見られており、加温器の60℃という設定は、理にかなっていることがわかる。また、60℃30分の加温した初乳を飲ませて3日後の血清IgG濃度や吸収率を調べた調査では、非加温初乳給与群と比較してもIgG吸収率に影響はみられなかった。(根釧農試, 2009)
この様にパスチャライザーは生乳を給与する際に、親牛からの伝染病のリスクを減らしつつ、IgGの損失も少なくできる、有効な機器であるといえる。
最後に注意してもらいたいのが、感染症のリスクをゼロにできるわけではないという点であり、ヨーネ病やサルモネラ症、BLV等に感染しているあるいは高リスクの牛の初乳、移行乳は給与を避けるべきである。また、初乳、移行乳を衛生的に搾乳すること、加熱までの保存を衛生的に行うことは言うまでもないことである。パスチャライザーでは病原微生物が完全に死滅しない可能性もあることを分かった上で使用してほしい。
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